人材開発支援助成金 / 厚生労働省

事業展開等リスキリング支援コース

新規事業がなくても、社内のDX化なら対象になる。制度の要点・必要書類と、介護施設のデジタル教育が該当するかの検証。

令和8年度が最終年度〜2027.3.31
中小企業向け 経費助成 75% 令和8年4月8日改正 反映
制度の対象

「事業展開」の“等”が効く

対象は3類型。いずれか1つに当たれば申請できます。②③は新規事業を立ち上げていなくても使えるのが最大のポイントです。

事業展開

事業展開が必要

新商品の販売や新サービスの提供で新たな分野に進出すること。既存事業内での製造方法・サービス提供方法の変更も該当します。

デジタル化・DX化

事業展開は不要

デジタル技術を取り入れ、業務効率を改善したり、既存の商品・サービス・業務そのものを変革すること。実施時期も問われません。

グリーン化

事業展開は不要

省エネや再生可能エネルギーの活用によって、CO2などの温室効果ガスの排出を抑えること。

②③は時期を問われない代わりに、動機の説明が要る

デジタル化・グリーン化は事業展開を前提とする要件がなく、具体的な実施時期も問われません。ただし訓練実施のきっかけを具体的に申告する必要があります。ここが様式第2号の書き込みどころです。

助成額

中小企業なら経費の4分の3

人材開発支援助成金の中でも突出して高い助成率です。訓練時間が長いほど経費上限が伸びます。

経費助成率
75%
大企業は60%
賃金助成
1,000円/時
大企業は500円/時
設備投資加算 上限
150万円
10人以上・令和8年4月新設
訓練時間別の経費助成上限(中小企業・1人あたり)
訓練時間経費助成の上限備考
10〜100時間30万円最も一般的なレンジ
100〜200時間40万円
200時間〜50万円
eラーニング単体15万円令和8年4月8日改正で30万円から引き下げ

eラーニング主体にすると上限が半額になる

改正前は訓練時間に応じて最大30万円でしたが、改正後は一律15万円です。集合研修を軸にしてeラーニングを補助的に使う構成なら、30万円〜50万円のレンジが維持できます。

設備投資加算(令和8年4月8日 新設)

訓練と直結した機器の導入費用の50%を助成。1人15万円、10人以上で上限150万円。ローカルLLM実行用ワークステーション、GPUサーバー、業務用AIツールなどが対象です。

条件:訓練終了後1年以内に賃金5%以上の増額(または資格手当3%以上)が必須。対象外:パソコン・タブレット・空調設備。

支給要件

ここを外すと支給されない

満たすべき要件

  • 雇用保険適用事業所であること
  • OFF-JT 10時間以上のカリキュラム(単発研修は不可)
  • 対象者が雇用保険被保険者で、訓練期間中も身分を維持
  • 実訓練時間数の8割以上を受講
  • eラーニング・通信制は修了が必須
  • 訓練開始1か月前までに計画届を提出

対象外となる訓練

全11項目のうち主なもの

  • 労働者の自発的な学習
  • ビデオ視聴のみの講座
  • 添削指導のない通信制
  • 趣味教養としての学習
  • 一般教養に限定した講義
  • 通常業務と変わらない現場実習
  • 国外で実施する研修
申請フロー

計画届は訓練開始1か月前が必着

期限が定められた実際の手順です。逆算して動かないと年度内に完結しません。

  1. 1
    任意 / 早いほどよい

    労働局への事前相談

    カリキュラム案を持参して対象可否を確認。DX化ルートは個別判断の幅が大きいため、様式第2号の書き方の当たりを付ける価値が大きい工程です。

  2. 2
    訓練開始 1か月前まで

    訓練実施計画届の提出

    様式第1-1号・第2号ほかを都道府県労働局へ。この期限を過ぎると受け付けられません。

  3. 3
    計画どおりに

    訓練の実施

    出勤簿・受講ログ・確認テストなど、受講時間を客観的に立証できる記録を残しながら実施します。

  4. 4
    訓練終了日の翌日から 2か月以内

    支給申請

    様式第5号ほかを提出。令和8年5月14日から様式第28号(受講料等の価格設定に関する疎明書)が必須になりました。

  5. 5
    訓練後

    職務従事の実施状況報告

    令和8年度から新設。計画どおり従業員を予定の職務に従事させ、その状況を労働局に報告します。未履行の場合は支給取消し。

必要書類

様式一覧

「必須」は全ケース共通、それ以外は訓練形態に応じて追加します。

計画届提出時 / 訓練開始1か月前まで
様式書類名要否
様式第1-1号職業訓練実施計画届必須
様式第2号事業展開等実施計画 — 本コース固有・審査の核心必須
様式第4-1号対象者一覧必須
様式第11号事前確認書必須
様式第14-1号事業所確認票必須
様式第10-1号OFF-JT部内講師要件確認書社内講師の場合
様式第10-2号OFF-JT部外講師要件確認書外部講師の場合
様式第1-2号通信制訓練実施計画書通信制の場合
様式第4-2号定額制サービスによる訓練に関する対象者一覧定額制の場合
様式第14-2号定額制サービスによる訓練による事業所確認票定額制の場合
様式第14-3号本社一括申請に関する事業所確認票複数事業所の場合
様式第3号職業訓練実施計画変更届変更時
支給申請時 / 訓練終了日の翌日から2か月以内
様式書類名要否
様式第5号支給申請書必須
様式第6号賃金助成の内訳必須
様式第7-1号経費助成の内訳必須
様式第9-1号OFF-JT実施状況報告書必須
様式第12号支給申請承諾書必須
様式第28号受講料等の価格設定に関する疎明書 — 令和8年5月14日から必須必須
様式第9-2号eラーニング訓練実施結果報告書eラーニングの場合
様式第9-3号通信制訓練実施結果報告書通信制の場合
様式第7-2号定額制サービスによる訓練の経費助成の内訳定額制の場合
様式第9-4号定額制サービスによる訓練実施結果報告書定額制の場合
様式第8号一般教育訓練等の受講証明書・受講修了証明書該当時
様式第13号育児休業中訓練の受講に関する申立書該当時

添付書類(計画届)

常時雇用労働者数がわかる書類(会社案内等)/ 対象者が被保険者と確認できる書類(雇用契約書等)/ 訓練カリキュラム / 見積書 / 講師の経歴書

添付書類(支給申請)

出勤簿・タイムカード / 賃金台帳 / 領収書・請求書 / 受講記録(eラーニングはログ)/ 修了証

令和8年度の変更点

去年の情報で動くと事故る

新類型と認定支援機関の確認

令和8年3月2日付で「企業内の人事及び人材育成に関する計画に基づく訓練」が追加。この類型を使う中小企業は、事前に認定経営革新等支援機関の確認が必須です。

訓練後の実施状況報告が義務化

計画どおり従業員を予定の職務に従事させ、実施状況を労働局に報告する義務が新設。計画未履行なら支給取消し。

様式第28号が必須に

令和8年5月14日から、支給申請時に受講料等の価格設定に関する疎明書が必要。電子申請画面が未整備のため、当面は「その他必要書類」として添付します。

コース追加は都度申請

令和7年度以降、訓練コースを追加する際は変更届ではなくコースごとに申請する方式に変わりました。

検証 / Case Study

介護施設のデジタル教育は対象か

結論

② DX化ルートで対象になり得る

介護施設が新規事業を立ち上げる必要はありません。ただし「ツールを閲覧させる」型の設計のままでは、対象外規定に正面から抵触します。可否を分けるのは業種ではなく、研修の形式・内容・時間・位置づけの4点です。

対象と判断する根拠

  • 事業展開が不要 — DX化ルートは事業展開を前提とする要件がない
  • 定義に素直に当てはまる — 介護記録ソフト・見守りセンサー・インカム・シフト管理の導入は「デジタル技術による業務効率改善」そのもの
  • 公式の該当例と構造が同じ — 医療機関向けアプリ開発、飲食店のITツール導入、ホテルのQRコード導入。いずれも対人サービス業の業務効率化
  • 生成AI活用も明示的に該当 — 「ChatGPT活用による業務効率化」「AI自動化ツールによる業務改善」が例示されている
  • 業種制限がない — 雇用保険適用事業所なら社会福祉法人・医療法人も対象

抵触リスクのある対象外規定

ビデオ視聴のみの講座は明文で対象外。「ツールの閲覧」型がこの形だと即座に不支給です。

  • 労働者の自発的学習 — 各自が好きなときに見る形式は不可。業務命令としての実施が必要
  • 一般教養に限定した講義 — 「AIとは何か」だけの座学は不可
  • 趣味教養としての学習 — 画像生成AIで遊ぶ内容など
  • 通常業務と変わらない現場実習 — 使いながら覚えるOJT的な進め方はOFF-JTにならない

可否を分ける4つの分岐点

不支給になる設計
  • 形式動画を各自で閲覧
  • 内容「生成AI入門」「AIの仕組み」
  • 時間2時間の説明会
  • 位置づけ希望者が任意で受講
対象になる設計
  • 形式講師による集合研修(対面/同時双方向オンライン)
  • 内容「介護記録ソフトの入力実務」「AIを使ったケアプラン下書き作成」
  • 時間OFF-JT 10時間以上のカリキュラム
  • 位置づけ業務命令・所定労働時間内・賃金支払い

推奨する研修設計

介護業務のICT化に対応するためのデジタル人材育成訓練

類型② DX化 / 集合研修(外部講師)+ 補助的にeラーニング

  1. 介護記録システムの操作と記録の標準化4h
  2. 見守りセンサー・インカムの運用と情報連携3h
  3. 生成AIによる記録要約・報告書作成の実務4h
  4. 個人情報保護とAI利用時の情報管理2h
  5. 演習・確認テスト2h
合計(OFF-JT 10時間以上の要件を満たす)15h

様式第2号に書くべきこと

ICT導入のきっかけ(人手不足、記録業務の負担、処遇改善加算の要件対応など)/ 導入する具体的なシステム名 / 訓練後に職員が従事する業務の変化。抽象的な記載は差し戻されます。

併用の検討 — 機器導入費は別制度で

機器の導入費そのものには介護テクノロジー導入・定着支援事業(地域医療介護総合確保基金)が使えます。介護記録ソフト・情報共有機器が対象です。研修費は人材開発支援助成金、機器導入費はこの基金と経費を分ければ併用可能です(同一経費への重複受給は不可)。

研修テーマ / 10案

介護施設で組める具体的な研修内容

すべて「介護業務のDX化」に紐づく設計です。右端の「様式第2号に書ける効果」が申請の肝で、ここが具体的なほど通ります。

DX化ルートで申請できる研修テーマ(外部講師によるOFF-JT想定)
分類 研修テーマ 時間 様式第2号に書ける効果
記録 介護記録ソフトの入力実務と記録の標準化 4h 手書き・二重転記を廃止して記録時間を短縮。表記ゆれをなくし、多職種が同じ精度で読める記録に統一する。
記録 タブレット・音声入力によるベッドサイド記録の実習 3h 記録の後回しを解消し、ケア直後の入力を定着させる。記憶違いによる記載漏れを減らす。
AI活用 生成AIによる申し送り文・業務日誌の要約作成 4h 長文記録の要約を自動化し、申し送り時間を短縮。伝達漏れというヒューマンエラーの削減に直結する。
AI活用 ケアプラン原案のAI下書きと専門職による検証手順 5h 原案作成の初速を上げつつ、AI出力を鵜呑みにしない検証工程を標準作業として定める。品質担保まで含む設計。
AI活用 業務マニュアル・研修資料のAI作成と社内ナレッジ整備 3h 属人化した手順を文書化し、新人教育とOJTの負荷を下げる。離職時の技能喪失を防ぐ。
データ 見守りセンサー・睡眠計測データの読み取りとケア改善 3h 夜間巡視の回数と経路を最適化。勘に頼らず、データに基づく個別ケアへ転換する。
データ LIFEへのデータ提出と科学的介護のためのデータ活用 4h 加算の要件対応を確実にしつつ、フィードバック票を実際のケア改善に接続する読み方を習得する。
データ インカム・ビジネスチャットによる多職種リアルタイム連携 3h 呼び出しのための移動というムダを削減。フロア間の情報伝達の遅延をなくす。
管理 勤務シフト作成システムの運用と人員配置の最適化 4h シフト作成の工数を削減。人員配置基準を満たしながら、特定職員への偏りをなくす。
管理 個人情報保護とAI利用時の情報管理ルールの策定 2h 利用者情報をAIに入力する際の線引きを全職員で統一する。他テーマとセットで必ず入れるべき単元。

組み合わせて10時間を超える構成にする

10案の合計は35時間。単体では10時間要件を満たさないため、3〜4テーマを組み合わせて1つのカリキュラムとして申請します。「記録+AI活用+個人情報保護」で13時間、これに「データ」系を足せば16〜17時間と、100時間未満のレンジ(経費上限30万円)に無理なく収まります。

テーマ名の付け方が審査に効く

同じ内容でも「生成AI入門」では一般教養とみなされ、対象外になり得ます。「介護記録の要約における生成AI活用」のように、介護業務の工程名を必ず含めてください。訓練後にその職員が従事する業務が読み取れる名称であることが重要です。

逆算スケジュール

いつ動けば余裕をもって申請できるか

制度が令和8年度で終了するため、訓練の完了までを年度内に収める必要があります。2026年7月末を起点とした推奨スケジュールです。

逆算の起点 ①
2027.3.31
制度の終了日。訓練はこの日までに完了させる
逆算の起点 ②
開始1か月前
計画届の提出期限。1日でも遅れると受理されない
逆算の起点 ③
終了後2か月
支給申請の期限。訓練終了日の翌日から起算
2026年 2027年 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 労働局へ事前相談対象可否の確認 8月〜9月上旬 研修会社の選定・見積様式第28号を意識 9月〜10月 様式第2号の作成審査の核心 9月〜10月 計画届の提出訓練開始1か月前 必着 10月末まで 訓練の実施OFF-JT 15時間 12月〜1月 支給申請終了翌日から2か月以内 2月中 労働局の審査3〜6か月 3月〜8月ごろ 職務従事・実施状況報告令和8年度から義務 訓練後〜 賃金5%増の実施設備投資加算を使う場合 訓練終了後1年以内
準備フェーズ 訓練の実施 絶対に外せない期限 待ち時間 訓練後の義務 年度末(制度終了)

この日程にした理由

  • 訓練を12月〜1月に置く — 年度末の2〜3月は労働局が混雑し、書類の不備対応に時間がかかるため前倒しする
  • 計画届を10月末に — 12月開始の1か月前。ここから逆算すると準備に使えるのは実質2か月半
  • 支給申請を2月に — 訓練終了後2か月の期限内で、かつ年度をまたぐ前に出し切る
  • 審査は年度をまたぐ前提 — 支給決定は2027年夏ごろ。入金までのキャッシュフローは自己資金で回す必要がある

遅らせた場合の限界

最も遅くて、2027年1月末に計画届 → 3月上旬に訓練開始 → 3月中に完了という日程です。ただし次の理由で推奨しません。

  • 書類に不備があった場合の修正余地がない
  • 年度末は研修会社の日程も埋まりやすい
  • 職員のシフト調整が年末年始の繁忙期と重なる
  • 訓練が年度をまたぐと対象外になるリスク

いま7月末。準備に使えるのは実質2か月半

推奨日程で進める場合、10月末の計画届提出がすべての起点です。事前相談・研修会社の選定・様式第2号の作成をこの期間に収める必要があります。8月中に労働局への事前相談を済ませられるかが、余裕をもって申請できるかの分かれ目になります。

次のアクション

年度内に完結させるなら今から逆算

千葉労働局 職業対策課へ事前相談

カリキュラム案と導入予定システムを持参。DX化ルートは「訓練実施のきっかけを具体的に申告」する必要があり、個別判断の幅が大きい領域です。対象可否をその場で確認できます。

研修形式を集合研修主体に組み替える

eラーニング単体だと上限15万円。集合研修10時間以上を軸にすれば30万円〜50万円のレンジまで伸ばせます。

受講記録の取得体制を先に決める

出席簿、eラーニングの受講ログ、確認テスト。実訓練時間の8割以上の受講を客観的に立証できる形にしてから訓練を開始します。

訓練後の職務従事計画まで描く

令和8年度から実施状況報告が義務です。研修後に実際にそのシステムを使う業務に就かせる前提で計画を立てないと、支給取消しになります。